思い出の向こう側

好きなものや思い出について書いたりしています

IN NEUTRAL

田中ヤコブの新譜「IN NEUTRAL」が良い。

 

1曲目の「sadness fanclub」からもう田中ヤコブが溢れている。

「楽しいことが続いたら 悲しいことが起こってしまいそう 起こってしまいそう」

楽しさの裏にその後に来るだろう悲しさを意識してしまう癖のようなものは私にもあって、悲しみ中毒みたいなものだと思っている。最終的には悲しみに行き着くというか、結局悲しみに浸っている時間が嫌いではない、みたいな。

田中ヤコブの音楽にはどこか暗さが漂う。痛みや悲しみを知っている人の音楽だなと感じる。それこそ中島みゆきとかCoccoとかもそうだけど、そういう人の音楽が私は好きだ。

 

2曲目の「夢からさめて」も同じような空気があって好き。「誰かの嘘も気づかないように耳を塞ぐ」とかいいですね。間奏の「タラタタン」って感じの音が好きです。

 

3曲目は「今は今を生きるとき」。田中ヤコブを知るきっかけの曲で、田中ヤコブを好きになった曲。「あ、今俺生きている」みたいな感覚を持てる時ってすごく幸せを感じるんだけど、そういう感じですこの曲。「今を忘れる瞬間、今を生きている」

好きなのでまた貼っておきます。

 

4曲目の「陰翳礼讃」はちょっと捻くれてる感じがあって、そこまで刺さらないのは多分私がどちらかというと「”ありのまま”で生きてきた」からなんだろうか。「さあ虚無と手を繋いでいこう この自由から卒業さ」はクスッと来るけど、今の私にはわからない感覚ではある。

 

5曲目の「外は春の雨が降って」は雨の音楽で、音が好き。特に間奏がいいですね。

 

6曲目が「心の焚き火」。「心の薪が溜まって腐っていく なんとかしなくちゃね 僕の想いは心の焚き火で燃やしてしまおうね」という最後の歌詞がいいですね。ここまでのどこか陰鬱な流れ、あるいはそういう人生をなんとかしなくちゃね、と歌っているよう。

 

そして「SIP」というインスト曲を挟み、8曲目が「サイクルズ」。以前記事で書いた、NegiccoのKaedeさんに提供した曲のセルフカバー。とても好き。KaedeさんVerももちろん好きだけど、また違った良さがある。「宇宙の片隅 地球の端の端くれ」や「日はまたどうせ沈んでみたり昇ってみたり」みたいなどこか開き直って自分を生きている感じがすごく好き。このアルバムにあっては明るさがスパイスとなっている。


 

 

9曲目は「リタイア」。「あーこのままありのままでいいかい?」とか、「オレノタソガレ in my room もう先が見えないや 淡い幻 in my dreams あーもう戻れないや」が好き。諦めというか虚無感というか。あと「陰翳礼讃」では「ありのままで生きてきたあなたにはわからないことでしょうね」って歌っていたところからの変化も面白い。

 

10曲目の「みょんパン」はぬいぐるみを歌った歌で、ぬいぐるみが好きな私としても親近感のある曲。「僕は僕の心 君に入れて映してる」

 

11曲目が「きかい」。「カギをかけたあなたの心を 開ける何か探すたびに 心は遠く離れてく」に胸がキュッとなる。「目抜き通りは 俺が歩いていい道じゃなかった」なんて、陰鬱から抜け出そうとしたけどできなくてやっぱり俺は日陰者なんだ、みたいなものを感じる。「何か起こったかい?何も起こらなかったんだね 何か変わったかい? 何も変わらなかったんだね」

 

12曲目の「Guraduate?」では苦しみから抜け出して別れを受け入れているかのような心を歌っている。「お別れだね 寂しいけれど 次の素敵な世界へ 探しに行こう 見つかればいいね」なんて綺麗に歌っておきながら、「守るべきものがある不自由さが 羨ましく見えたりするのさ」と未練を口にし、「何も言えずにただ苦しみの中に答えを探して 目指せないよ 楽園なんてね」と続く。ずっと明るい曲調だからこそ、その痛みが映える。「Guraduate?」の”?”がここに表されているような気がしている。でも2番では「メソメソすんなよ」という君が残した言葉を頼りに前へ向いているので救いがある。好き。

 

そして最後の曲、「遠乗り」。めちゃくちゃ好き。

この曲は2010年に作られ、当時出していた私家盤に入れていたら評判だったものらしい。私家盤めっちゃ聴きたいな。あと19歳でこの曲を作っているのすごい。それを今回引っ張り出して録り直したらしい。

「長い長い冬さえ 終わりは切ないものさ すきま風が吹こうが 肌を刺すことはない」がすごく好き。英題が「My Liberty」なのもいいですね。

とりあえずこの曲だけは聴いて。

 

 

全編通して好きが溢れている。私はどこか暗く諦めを湛えて、でも生きようと時には泥臭くなる、結局愛のあるこの世界観が好きなんだなぁ。あとこの曲たちを、全楽器の演奏や録音含めて全部一人で、家で作ってるのほんとすごい。なんでそんなことができるんだ。

 

そういえばヤコブさんがインタビューで、自分のルーツの一つとしてMy Little Loverに言及していたのがすごく嬉しかった。あとHomecomingsのラジオでヤコブさんの名前が上がっていたのも嬉しかったな。多分、自分の好きなもの同士が繋がっている感じがすごく喜びというか幸福を感じさせるんだな。嬉しいですね。