思い出の向こう側

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街の上で

先週の土曜日。

会社の後輩に教えてもらった東寺にあるラーメン屋(とことんとりコトコト)に行き、美味しいラーメンを食べ終えて、京都駅へ向かおうと九条通を歩いていた時のこと。

ふと顔を上げると、壁にあった一枚のポスターが目に入った。見たいなと思っていた映画のポスターだった。

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『街の上で』。今泉力哉監督の作品で、結構評価が高い。主題歌がラッキーオールドサンの『街の人』だったのがきっかけで知って興味を持っていた。

何年も前に公開された映画だったから、もう配信もされている。前に一度配信で見ようと思って、実際に見始めたのだけれど、私は配信だと集中力がもたず、途中でやめてしまっていた。

ああこの映画見たかったな、と少し懐かしくなり、さらに顔を上げてその建物を眺めた。

こんなところに映画館があるとも思わず、なんだここはと思ったが、それは映画館だった。

京都みなみ会館という。1964年開業で、2019年にリニューアル(ちょっと移転)して今になるらしいから、割と古くて割と新しい。出町座のようなものか。

ちょうどこの一週間だけ、『街の上で』の上映があるらしい。見たいなと思いつつ上映時間を確認すると、19:15〜。今はまだ14時。流石に5時間後にまた来る気にはならず、その日は京都駅で買い物をして帰った。

 

けれど、こんな巡り合わせはそうそうない。歩いていて偶然見つけた映画館で、偶然その一週間だけ、ちょうど見たかった数年前の映画をやっている。しかも19:15〜なら仕事終わりに見に来れる。少し迷った挙句、水曜夜に見ることにした。サービスデーで1200円だったのも後押しした。

 

 

映画はとても良かった。下北沢を舞台に繰り広げられる群像劇で、荒川青というどこか冴えない青年とその周りの人たちの物語。特段大きな事件が起きるでもなく、ありふれたような日常の中で描かれている愛や友情、不器用さがすごくいい。青という青年は冴えないし、全然かっこ良くもないし、コミュニケーションもなんか下手で、間も悪い。すごく不器用なんだけどまっすぐで、だからこそ周りの人たちは彼のことが好きなんだろうな。でもその周りの人たち(特に雪)もまたどこか不器用で、そのすれ違いが何だか愛おしい。

それと、この映画では伏線のように色々な場面がつながっていくのだけれど、その様は下北沢という街が彼らを包んでいるよう。それが”街の上で”、なんですよね。

「文化はすごいよね、街は変わっていってしまうけど、文化は残る」というようなセリフに対して「街もすごいっすよね、変わってしまうけれど残る」というようなセリフで青が返すシーンが印象に残っている。あの喫茶店でのシーンはなんか好きだ。

あと出てくる女性たちの中では城定イハさんが好きでした。これはみんなそうだと思う。

また繰り返し見たくなっちゃったな。今は便利な世の中で、配信で何度でも見ることができる。一度目は映画館で、二度目は配信でというのが私にはぴったりかもしれない。

 

知らない街を車窓から眺めたり、あるいは歩いたりするとき、その街に暮らす人々の生活に想いを馳せることがある。名前も顔も知らない誰か、その人たちの物語がここにはある。それは同時に私の物語でもあり、あなたの物語でもあるんだろう。

”誰も見ることはないけど 確かにここに存在している”というフレーズはすごく秀逸だなと思う。ひっそりと過ぎていく誰かの物語。

 

こんな街で暮らしたいなと思うし、こんな人々に囲まれた生活をしていたい。なんだか羨ましくなってしまった。今度東京に帰ったら下北沢に寄ってみようかな。

 

もっと伝わるような言葉でこの映画の良さを伝えたいなと思いつつ、今の私に紡げるのはこれくらいだった。難しいな。

映画『街の上で』オススメです。是非。