久しぶりに新しい本をちゃんと読めるようになって、私は今とても嬉しい。嬉しいついでに最近読んだ本について書き残しておく。
吉本ばなな 『キッチン』
読み始めた頃にも書いたけれど、ずっと読みたくて、でも読めずにいた本。読めてよかったです。寂しくて優しくて温かい、そんな物語。すごく綺麗で、不思議なこともたくさん起こるのにそれらが全て不思議ではないというか。人を失うこと、それでも生きていかなければならないこと。それはもう、どうにもならないことではあるけれど、そこに奇跡のような希望を信じることくらいしてもいいんじゃないか、そんなことを思わせてくれる。美しいな。
好きな表現がたくさんあった。
光が散るような寂しくて明るい笑顔だった。夜中が、深まってゆく。窓の外に美しい夜景がちらちらとまたたくのを、振り向いてみつめた。高くから見降ろす街は光の粒にふちどられ、車の列は光の河になって夜を流れていく。
私は、ぼんやりとソファに埋もれて、広い窓の外、冬の初めのグレーが街を覆っているのを見つめていた。
この小さな街のすべての部分に、公園に、路に、霧のようにしみとおる冬の重い冷気を支えきれない。押されて息ができない。そう思った。
闇の中、切り立った崖っぷちをじりじり歩き、国道に出てほっと息をつく。もうたくさんだと思いながら見上げる月明かりの、心にしみ入るような美しさを、私は知っている。
ただ、こういうとても明るいあたたかい場所で、向かい合って熱いおいしいお茶を飲んだ、その記憶の光る印象がわずかでも彼を救うといいと願う。
言葉はいつもあからさますぎて、そういうかすかな光の大切さをすべて消してしまう。
車窓をゆく、きりりと晴れた景色を見つめて、私は自分の内部に生まれたとほうもない距離を呼吸した。
こういう綺麗な表現をできるようになりたいな。
くどうれいん 『わたしを空腹にしないほうがいい』
高松の本屋ルヌガンガで物色していた時に目に止まり、パラパラとめくったら好きな感じだったから買った本。くどうれいんさんのことは何も知らなかったけれど、こういう文章好きだなって見た時に思ってしまった。そしてその感覚は正しかった。やっぱり直感は信じていいんだな。あと、この本を手に取ったのは『キッチン』を読みはじめた後で、多分『キッチン』に導かれていたんだとも思う。
食べること、作ること、生きること、そんなテーマで書かれたエッセイ集で、タイトルが全て俳句になっているのだけれど、それがすごく好き。「ファインダーとまつ毛の間まで薫風」とか。
言葉の使い方が軽やかで気持ちよくて、書かれている食べ物は全て美味しそうで、それを作る過程もすごく楽しそうで。甘さやほろ苦さ、美味しさ、そういった味覚が日常の生活感覚と共鳴していた。ちゃんと料理してみたくなった。
パセリのやつとかが特に好きだったし、あと2017年6月のやつはどれも好きだったな。
すごく素直に、そして綺麗に書かれていて、文章はこうも美しくなるのかと。歌人は言葉を見つめる力がすごいな、なんて思っていた。
ナナ『うすらいの旅の日記』
ラッキーオールドサンのボーカル、ナナさんの書いた旅日記。2021〜2023年にかけて行われた47都道府県ツアーの旅が書かれていて、出版されると知りどうにかして手に入れなくてはと思っていた。が、自主制作なので香川では取り扱いがなく、オンラインでは買えるけれどそれではなんだか味気ない。どうしようかなと思っていたが、京都一乗寺の恵文社で取り扱いがあることを知り、ちょうど京都に帰る用事ができたため、そこで購入することに。
恵文社は日常の景色の一部ではあったけれど、入ったことは多くなく、少しドキドキしていた。京都を離れてから、また京都での縁というか、何かがつながっていくのは面白いことだなと思う。今の私だったらもっと通っていたかもしれないね。
旅日記には私が観に行った拾得でのライブも載っていて、なんだか不思議な気分。懐かしいな。
日記は割と淡々と進んでいく。それは『わたしを空腹にしない方がいい』と違う感じなのだけれど、『わたしを〜』が日常的なエッセイなのに対してこちらは旅という非日常の記録だからかもしれない。でもこちらも好き。このさらっとした感じはラッキーオールドサンの音楽と同じ感じかもしれない。
途中の描写で、ナナさんが私の2個上であることを知る。マジか……
好きなアーティストが自分と近い年齢だと、なんだかショックを受けてしまうみたい。くどうれいんさんも1個上とかだし。比べるものでもないと思いつつ、やっぱり私は全体的に幼くて、そのことがなんだか少しみじめに思えてきてしまう。もっと大人にならなきゃな。
『うすらいの旅の日記』はまだ読み途中。ちょっとずつ読み進めていけたらいいなと思う。
こうして本を少しずつ読めていること、そして小説にも手を出せるようになったことは本当にすごく嬉しい。感情を動かせるようになった、それは学生に戻ったことで得られたことだとも思う。こうやって人生が彩り豊かになっていくのであれば、この選択はちゃんと自分に誇っていいことなんだと思う。大丈夫。ちゃんと私は前へ進んでいる。