思い出の向こう側

好きなものや思い出について書いたりしています

パレット

思っていたこと、考えていたことがどんどん消えていく。書きたかったはずのことがもう浮かばなくなる。何を書きたかったんだっけ。何を書かなきゃいけないと思ったんだっけ。そんなことばかりの中で、少しだけ残っていたものを書いている。

 

世の中のことは大抵グラデーションで、白とか黒とかはっきりした色じゃなくてグレーだったりするんだ、みたいなこと。よく言われるし、まあ実際そうだなと思う。私だって白でも黒でもないし、青でも赤でもない。もうよくわからない色。

 

心の中には白も黒もあって、それらが混ざり合ってグレーになっているんだとしたら、私たちの役割はその色を言葉にすることなのかもしれない、なんてことを思う。

でも。そうやって混ざり合っているのであればその一つの色について聴いてほどいていくことになるんだろう。それならまだしも、心の中で混ざり合うことなくいろんな色があちこちにあるんだとしたら、それはもっと難しいことなのかもしれないと思う。

 

色を混ぜ合わせることは果たして必要なんだろうか。別々の色のままでもいいじゃないか、とも思う。グレーの色をグレーと呼ぶとき、その色をグレーとしてそのまま扱うこともできるし、白と黒を混ぜたものとしても捉えることができる。もし、分けて考えることが必要なのであれば、最初から分かれている場合にわざわざ混ぜる必要はない。でも、混ざることで私たちはなんとか生きていける。混ざらないままで生きるのはすごくしんどいことなんじゃないかと思うのは、混ざって生きている側に立ちすぎているだろうか。

 

そんなことを考えている。

 

 

先日、少し人助けのようなことをした。尾道の急坂を登っていたとき、電動車椅子の人が降りてくるところにすれ違った。急坂でブレーキが効かない様子で、なんとか手すりをつかんだものの落っこちそうだったから、心配して見ていた。近くにいた2人のお兄さんが声をかけ、私もそれに続いた。2人が手を差し伸べて支えていたから私は任せて去ろうとしたが、車椅子が思ったよりも重く、2人では足りなさそうだったので私も手を差し伸べた。その人は千光寺山の上の方にある尾道市立美術館に行きたくて、タクシーにも断られ、なんとかロープウェイで山頂までやってきて、美術館へと降りてゆくところだった。3人でなんとか支えて美術館まで無事送り届けることができた。

 

いいことをした、と言いたいわけではない。私はまだ弱く、心配はするもののすぐに駆けつけたり、手を差し伸べることができなかった。2人がさっと手を差し伸べたからこそ、私も手を伸ばすことができた。彼らがその人を助け、そして私も彼らに救われたのだと思う。

急坂を降りて送り届けたあと、再び急坂を登る。2人にはお礼を言われたが、お礼を言わなければならないのは私の方だった。

こちらこそありがとうございました。真っ先に手を差し伸べてくれたこと、そして手を差し伸べるかどうか迷い躊躇していた私を引っ張ってくれたこと。

 

どうかみな幸せであってほしい。そんなことを思い、尾道の街を眺めていた。

 

 

尾道。好きではある、けれど色々な複雑な気持ちもある、そんな街。4年前に試験で落とされたことをいまだに根に持っているのは幼いなぁと思いつつ、そこに感じざるを得なかった排他性や停滞感は、どこか負の感情を連れてくる。あるいはこの日のような、どこか古さに甘えた冷たさも。

好きなんですけどね。好きだという、耳触りの良い言葉で語る方がはるかに楽で綺麗なのだけれど、それは私の中にあるもう一つの気持ちを殺してしまうことになる。

なんでもそうだと思うんですけど、好きって言う時には大抵他の気持ちも存在しているのだと思う。少なくとも私はそう。音楽にしても文章にしても、人にしても、それらを好きという時にはいろいろな気持ちを飲み込みつつ、そんなことを言っても仕方がないと思って、ただ「好き」と言葉にする。

それは嫉妬であることもあるだろうし、あるいは嫌いな気持ちであることもあるだろう。でもそれらが表に出ることはなかなかない。「好き」に隠されてしまうそれらの気持ちを、ちゃんと気づいて大事にしていきたいなと思う。

グレーであるかはわからない。限りなく白に近い、でもその中に微かにあるような黒や青。それは気づかれないかもしれないし、あるいはノイズとして取り除かれてしまうようなものかもしれない。あるいは黒の中にある微かな白。あるいは闇の中の一点の光、あるいは光の中にある影。

 

そういうものにどれだけ気を配れるかが、きっとこれからの私には必要で、そして今の私に足りていないことなのだと思う。

 

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これらは岩手県立美術館に展示されていた、百瀬寿氏の作品。

グラデーションについて考えていた時に出会ったからなんだか嬉しくなった。好きです。まあこの「好き」にも色々含まれてるんでしょうけどね、一旦は置いておきます。