思い出の向こう側

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空も飛べるはず

 先日、初めてスカイダイビングを体験してきました。

 


 

 そもそもなぜ飛ぼうと思ったのか。

きっかけは6月の上旬、とあるテレビ番組でスカイダイビングをやっているのを見たからだった。

その時、自分の中に「空を飛んでみたい」という衝動を見つけた。それまでにも空を飛びたいなとなんとなく思う時はあったけれど、この時に初めてはっきりと自覚したのだった。

働き始めて自分のお金が出来たこと、ちょうどボーナス直前でお金にも余裕がありそうだったこともあって、「飛ぶ」選択が生じた。調べてみると、一回3万〜5万くらいで飛べるらしい。10万はかかると思っていたから、想定よりだいぶ安くて現実的に飛びたいと思うようになった。

日本で飛べる(体験できる)場所はあまり多くはなかった。関東だと群馬の藤岡や埼玉。北海道にも何箇所かあったりするらしい。

そして西日本では但馬空港のみらしく、但馬空港にしようかなと思っていた。でも微妙に遠いしな〜……、とか、飛ぶなら夏休みだけどまだ予定がわからないしな……と思って予約を先延ばしにしていた。このままズルズル先延ばしにして、結局飛ばないんだろうな〜とも思っていた。

そんなこんなで7月も終わりの方になっていた。夏休みの日程も決まり、予約もできる状態だったけど、あいにくもう予約が埋まっていたりして、なんか面倒になって、もういいかなとも思っていた時だった。東海オンエアのこの動画を見つけたのである。


 

このスカイダイビングは伊勢志摩で行われていた。

 

え、伊勢志摩にあるの!?マジ?知らなかった……

 

しかも海のすぐそばだから景色とても綺麗。これは但馬空港よりもいい。多分。

料金は49800円。撮影代が5000円で、計54800円。多少高めではあるけれど、交通費とかを考えたら言うほどでもない。但馬に行くよりはだいぶ心理的に行きやすいのだ。

予約はLINEで行うとのことで、ちょっとそこには心理的なハードルがあった。申し込む前に空き状況とかを確認できないし(他のところは申し込み前に空き状況を確認できるシステムが多かった)、ちゃんとしたところなのかな……という不安もあった。事故って死にたくもないし。

さらに調べた結果、アソビュー!というサイトでも予約ができることがわかった。そこで予約を申し込んだのだけど、日時を一つしか選択できないシステムで、あえなくその枠は埋まっていますと返ってきてしまった。ううむ。もっと早く申し込むべきだったか。焦りを感じた。

夏休みは二日間あったので、そのどちらかであれば良かったし、時間は融通が利く。もうこれはLINEで直接交渉した方が早いやと思ってLINEで申し込み、めでたく予約が取れた。こうして私は空を飛ぶことになったのである。

 準備としては、前日に酒を飲まないこと。あとスポーツ用の眼鏡バンドを買っておくことぐらいだったか(コンタクトでも良かったのだけど、最近ずっと眼鏡だったので眼鏡でいいやって)。

 


 

 8/23。予約をしていた当日になった。

天気が悪いと飛べない(雨や強風は当然ダメで、雲が低い時もダメ)ので晴れますようにと祈っていたが、あいにくの曇り空。一応飛べるくらいの雲なのかな……?不安になりながらも伊勢志摩へと向かった。

近鉄特急を乗り継ぎ、3時間ほどかけて鵜方へ。昼に寿司を食べ、バスで田曽白浜へと向かった。30分ほど揺られればスカイダイビングクラブの近くに着くのだけれど、私は飛ぶ前に少し観光をしたかったので途中の磯笛峠で降りた。

海を眺めた。

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この時点では天気は耐えていそうでホッとした。海岸線沿いの山道を通っていけば集合時間に間に合うという読みだったのだけど、山の中で道に迷い、道のない急斜面を降りるというなんとも危ないことをする羽目になった。飛ぶ前にこんなところで怪我したら笑えんぞ、と思いつつ、なんとか辿り着いた。

 

慌てて着いたもんだから、スカイダイビングクラブの周りの景色とかを撮っていなかった。ちょっともったいなかったな。綺麗な砂浜でした。

 

クラブに着き、書類を提出して受付を済ませると、3分ほどの説明映像を見ることになった。安全のためのやつですね。その後ジャンプスーツに着替え、ハーネスを着用。一気に現実的に飛ぶ空気になってきた。早い。心の準備をする暇はあまりなかった。とはいえ緊張よりはワクワクの方が強かった。ちなみに料金は後払いだった。

安全に飛ぶための講習を受け、上空での姿勢などを確認する。バナナの姿勢とか。基本的には後ろでタンデムを組んでくれるインストラクターの方の指示に従っていれば大丈夫である。ちなみに私が組んだのはロニーさんという方で、ドイツの軍隊にいたことがある人らしいというのを後できいた。

 

上空へはヘリで行くのだけど、2人1組で飛ぶため、もう1人私と同じように飛ぶ人がいた。その人と話し合って、飛び出す順番は彼が先で私は後になった。どんな感じで飛び出すのかを見れるのでちょうど良いと思った。

 

そしてヘリに。多分、クラブに到着してから20分ほどしか経っていない頃である。この時も緊張よりワクワクが強かった。空を飛べるんだよ!という気持ちでテンションが上がっていた。

ヘリが飛び立ち、徐々に高度を上げていく。飛び出す地点である3000mまでは10分ほど。5分くらいのところでロニーさんの上に座り、ハーネスをしっかり締めてもらった。完全に身を預けるというか、命を預けるわけで、流石に緊張してきた。怖くはなかった。雲を通り越し、雲の上にやってきた。綺麗だった。いよいよその時が来た。

 

そして3000m地点。扉が開き、先にもう1人の人が飛び出していった。見ておこうと思っていたが、その余裕はなかった。今振り返ってみてもその時の記憶はあまりない。

すぐに私の番になる。ロニーさんが空いている扉へと座りながら移動し、私の体が外へ出る。上空3000mに私はいて、もうすぐ飛び降りるのである。けれど、そんなことを意識する余裕はなかった。ワクワクはしていたけれど、ただ必死に教わっていた姿勢を保とうとしていた。3000mの景色を何も覚えいてない。ただ、あまりにも高すぎて現実味はなく、怖さはなかった。多分ビルの屋上とかの方が怖いだろうな。

 

そして飛び出す。ただこれもロニーさんが飛び出す主導権を持っているわけで、私としてはただ身を預けていただけに過ぎない。

 

急降下。フリーフォールである。真っ逆さまに落ちていく。いきなり頭が下になって、頭からすごい勢いで落ちていくこの時ばかりは恐怖を感じた。死の匂いがした。

 

 

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これがフリーフォール中。多分叫んでいた。目を開けていられたかどうかも覚えていない。ただ、微かに景色の記憶はあるから、一応は見ていたのだろうか。

どれくらい経っただろうか。ロニーさんがパラシュートを開いた。上へと体が引っ張られ、体勢が急に変わった。頭が上になった。この上に行く瞬間も少し怖かった。

 

すぐに落ち着き、目の前に広がる景色はこれだった。

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 マジで最高。本当に最高。俺、今空を飛んでるんだ……という感動が広がっていた。あまりにも幸せな時間だった。すごく気持ちよくて、楽しくて……。体中で風を受け止め、風を感じて、空と一体化していて。鳥になったようだった。無我夢中だった。

 

どれくらい飛んでいたんだろうか。この時間が終わらなければいいと思っていたけれど、気づけば高度はだいぶ下がっていて、砂浜めがけて降下していった。この時結構ぐるぐる回ったのでちょっと酔った。ロニーさんの操縦はとても上手く、すごく綺麗に着地した。砂浜に降り、地面を感じてからもずっとふわふわした感覚が続いていた。本当に夢のような時間だった。信じられない時間だった。

 


 本当に楽しくて、また行きたいと強く思った。54800円は高いけれど、それだけの価値はあると思った。

あとで聞いたところによると、夏は上空も寒くないし天気がいい日も多いので飛びやすいらしい。ただ景色は冬の方が空気が澄んでいるから綺麗(ただしめっちゃ寒い)らしいので、今度は冬かな。富士山や日本アルプスも見えるらしいし、天気が良ければ夏でも見えたらしいんだけど、今回はそんなことを気にする余裕がなかった。

 

帰りにはクラブの人に横山展望台へ送って行ってもらい(ありがとうございました)、展望台からの景色も眺めたのだけれど、これは完全に蛇足。

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だってもっと上からの景色見てたし。

 

翌日も休みだったので、帰りに熊野とかの方に行って泊まってってもよかったのだけれど、なんかもう満ち足りたのでこれ以上は蛇足になると思い、そのまま帰った。

今振り返っても最高の時間だったな……。伊勢志摩スカイダイビングクラブのみなさん、本当にありがとうございました。また行きます!

 

 

私は子供の頃から高所恐怖症で、山の上とか、東京タワーの外階段とかが怖くて足が竦むような人間だった。そんな私が、自分からスカイダイビングを飛びに行って飛ぶなんて想像もできないことだった。家族にもとても驚かれたし。

 

数年前に、怖さが薄れているのを感じた。多分生と死を考え続けていたからだと思う。あの日々があって今があり、そして空を飛んだ。そういう物語なのである。