ZARDには、幻の曲と呼ばれていた曲がある。
その曲は、『約束のない恋』。
この曲はアルバムに収録されていないどころか、シングルのカップリングにも入っていない。プレミアムボックスという、ZARDの全シングルを集めたセットの特典のみに収録されている。つまり、このプレミアムボックスを買わなければ聴くことができない曲なのだ。そしてこのプレミアムボックスは定価で約4万円。中古でも2万円弱といったところだろうか。ものすごいプレミアである。
私は中学生の頃にZARDに出会い、ファンになった。聴き続けるうちにどんどんハマり、全部の曲を聴きたいと思うようになった。とはいえ、CDを買い漁れるほどのお金はなかったので、地域の図書館で借りたり、時にはブックオフで買ったりしてアルバムを集めていった。
アルバムがひと段落すると今度はシングルのカップリングが欲しくなり、吉祥寺のレコードショップで8cm盤を買ったりしていた。一番大きかったのは、練馬区の図書館で『ZARD SINGLE COLLECTION〜20th ANNIVERSARY〜』（プレミアムボックスとは違うやつ）を借りれたことで、これで全てのシングルカップリングが揃って、ZARDのほぼ全曲を集めることができた。
ただ一曲、『約束のない恋』を除いて。
あと一曲、となったところで完全に道は途絶えていた。プレミアムボックスを買う以外に選択肢はなかったが、もうすでに他の全曲を集めきっていたから、その一曲にしか買う意味が存在しない。つまり一曲のためだけに2〜4万円を出さなければいけない。いくらなんでも無理である。
iTunes Storeで配信されていないだろうか、とチェックしたりすることもあったが、当然のようにされていなかった。それはそうだ。特典の意味がなくなってしまうし。
それでずっと諦め続けて、でも諦めきれなかった曲。10年近く想い続けていたのである。
大学生になった頃、大きな声では言えないがYouTubeにアップ（違法）されているのを見かけてしまって、つい聴いてしまったことがある。いい曲だった。
だから聴いたことがないわけではなくなってしまったけれど、正規の手段でいつかちゃんと聴きたいという想いは変わらずに持ち続けていた。
そしてその日は訪れた。
2021年9月15日。ZARDが全楽曲をサブスク解禁したのである。
この日はZARDのデビュー30周年を記念して、ZARDのオリジナルアルバム全11枚がリマスタリング（廃盤になっていた『時間の翼』はリアレンジ）されてリリースされる日であった。
私は全て持っていたので、リマスタリングくらいなら別にいいし、リアレンジの『時間の翼』だけ買おうかなと思っていた。
それと同時に、ZARDの公式Twitterではアルバムリリース以外にも何か情報解禁がありそうな匂わせがあったので、もしかしてサブスク解禁では……？なんて思っていた。それだったら買わずにサブスクで聴けばいいや、とも。『約束のない恋』のことなんてなにも考えていなかった。
そして0時。サブスク解禁の文字。全曲、という文字を見て頭が真っ白になった。もしや、と思いながら震える手で検索する。全曲解禁とはいえ、幻の曲だ。ないかもしれないとも思った。まだ信じていなかった。
あった。
聴いた。久しぶりに聴いた。いい曲だったこと、そして10年越しの夢が叶った感動で嬉しくて泣きそうだった。何回も聴いた。
そんな素晴らしい日を残しておきたくて書きました。これからもZARDを聴き続けていきます。
ついでにリアレンジされた『時間の翼』についても書いておきます。
この9枚目のアルバムは、ZARDのアルバムの中で唯一廃盤になっている。結構好きな曲が多いアルバムだったので、その事実を知った時は驚いたのを覚えている。なんでも坂井さんがその出来に納得できなかった、というのが理由だそう。
ZARD、オリジナル作10作のリマスター盤と、9作目『時間の翼』のリアレンジ盤をリリース。担当制作Dに再アレンジの経緯を訊く | Mikiki
私は好きなんだけどな。でも確かに、『揺れる思い』と『負けないで』の謎リミックスが収録されていたり、表題の『時間の翼』はサビのみの状態（要するに未完成）だったりして、どうにも中途半端なアルバムになってしまっていた。リミックスは正直イマイチ（しかも長い）な感じだし、なんでこのタイミングでその二曲……？って感じだし。なんかこう、突貫工事で無理矢理間に合わせましたって感じがあるアルバムでもある。
でも『窓の外はモノクローム』『お・も・ひ・で』『明日もし君が壊れても』『hero』あたりはマジで良くて好きだった。
今回のリアレンジは楽しみであると同時に、少し不安でもあった。だってオリジナルのアレンジが好きだったから。
聴いてみて、結構ガッツリ変わっていることに驚く。そして、いい。オリジナルの方がいいだなんて思わない。どっちもいいのである。
アレンジでこんなにも変わるんだ、という驚きと新鮮さ。もうZARDは新曲が出ることがないけれど、まるで新しい曲を聴いているような感覚だった。この感覚はもう味わえないと思っていたからとても嬉しかった。
『時間の翼 〜30th Anniversary〜』、オススメです。
